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第3部分

仮面城(日文版)-第3部分

小说: 仮面城(日文版) 字数: 每页4000字

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 香代子が心配そうにたずねると、
「いいんだ、いいんだ、医者なんかいらん」
 そのことばつきがあまりはげしかったので、文彦はまた、相手の顔を見なおしたが、すると老紳士も気がついたように、にわかにことばをやわらげて、
「香代子、おまえはむこうへいっておいで、わしはこの少年に話があるから」
 香代子は心配そうな目で、オドオドとふたりの顔を見ていたが、それでもだまってへやから出ていった。
 あとには老紳士と文彦のふたりきり。老紳士は無言のままくいいるように文彦の顔をながめている。文彦はなんとなく、きまりが悪くなってうつむいてしまったが、そのときだった。文彦は老人のほかにもうひとり、だれかの目がジッとじぶんを見ているような気がしてハッと顔をあげて、へやのなかを見まわした。
 まえにもいったとおり、そこはたいへんゼイタクなへやなのだが、なにもかも古びていて、なんとなく陰気な感じがするのだ。しかし、そこには老人と、文彦のほかにはだれもいない。それではじぶんの気のまよいだったのかと、文彦は老人のほうへむきなおろうとしたが、そのとき、ふとかれの目をとらえたのは、暖炉の横のほのぐらいすみに立っている、大きな西洋のよろいだった。
 文彦はハッとした。ひょっとするとあのよろいのなかにだれかひとが……だが、そのとき老人の声が耳にはいったので、文彦はやっとわれにかえった。
「文彦くん、なにをキョトキョトしているんじゃ。わしのことばがわからんかな。きみのおとうさんの名まえはなんというの?」
「あ、ぼ、ぼくの父は竹田|新《しん》|一《いち》|郎《ろう》……」
「香港でなにをしておられた?」
「貿易会社の社長でした」
「おかあさんの名は?」
「竹田|妙《たえ》|子《こ》といいます」
「いまどこに住んでいるの?」
 まるで口頭試問をうけているみたいである。
 文彦の答えに耳をかたむけていた老紳士は、やがてふかいため息をついて、
「文彦くん、きみはたしかにわしのさがしている少年にちがいないと思うが、念には念をいれたい。左の腕を見せてくれんか。また、さっきのようなことがあっては……」
 さっきのようなこととはなんだろう。そしてまた、なぜ左の腕を見せろというのだろう。……文彦はまた、なんとなくうす気味悪くなってきたが、そのときだった。あの奇妙な物音が聞こえてきたのは……。
 どこから聞こえてくるのか、隣のへやか、天じょううらか……いやいや、それはたしかに地の底から聞こえてくるのだ。キリキリと、時計の歯車をまくような音。……それがしばらくつづいたかと思うと、やがてジャランジャランと、重いくさりをひきずるような音にかわった。
 武蔵野のこの古めかしい一軒家の、地の底からひびいてくるその物音……それはなんともいえぬ気味悪さだった。

     ダイヤのキング

「おじさん、おじさん、あれはなんの音ですか?」
 文彦は思わず息をはずませた。老人もいくらかあわてたようだったが、しかし、べつに悪びれたふうもなく、
「そんなことはどうでもよい。それよりも文彦くん、早く左の腕を見せておくれ」
 物音はいつの間にかやんでいた。文彦はしばらく老人の顔をながめていたが、やがて思いきって上着をぬぐと、グ盲去伐悭膜韦饯扦颏蓼辘ⅳ菠俊@先摔悉いい毪瑜Δ恕⒆螭瓮螭文趥趣颏胜幛皮い郡
「ああ、これだ、これだ。これがあるからには、きみはたしかにわしがさがしていた文彦だ」
 老人の声はふるえている。それにしてもこの老人は、いったいなにを見たのだろう。
 文彦は左腕の内側には、たて十ミリ、横七ミリくらいの、ちょうどトランプのダイヤのような形をした、|菱《ひし》がたのあざがあるのだ。文彦はまえからそれを知っていたが、いままでべつに、気にもとめずにいたのだった。
「おじさん、おじさんのいうのはこのあざのことですか?」
「そうだ、そうだ、それがひとつの|目印《めじるし》になっているんだよ」
「それで、おじさん、ぼくにご用というのは……」
「実はな、あるひとにたのまれて、ずうっとまえからきみをさがしていたんだよ。やっと望みがかなったわけだ」
「おじさん、あるひとってだれですか?」
「それはまだいえない。でもそのことについて二、三日うちに、きみの家へいっておとうさんやおかあさんとも、よくご相談するからね」
 まったくふしぎな話である。けさから起こったこのできごとが、文彦には夢のようにしか思えなかった。えたいの知れない渦のなかにまきこまれて、グルグル回りをしているような、または、なにかに酔ったような気持ちなのだ。
 文彦と老紳士は、しばらくだまって、たがいに顔を見合っていたが、そのときだった。この家のうらあたりで、なんともいえない一種異様な、それこそ、ひとか、けもの[#「けもの」に傍点]かわからぬような叫び声が、一声高く聞こえてきたかと思うと、やがてろうかをドタバタと、こちらのほうへ近づく足音。
 文彦と老紳士は、スワとばかりに立ちあがったが、そこへころげるようにはいってきたのは……ああ、なんという奇妙な人物だろうか。
 背の高さは二メ去毪沥ⅳ蓼毪侨Lの選手のような、ガッチリとしたからだを、医者の着るような、白衣でつつんでいるのだが、その顔ときたらサルにそっくり。西洋の土人のように髪がちぢれて、ひたいがせまく、鼻が平べったく、しかも、おお、その声。……なにかいおうとするのだが、あわてているのか、あがっているのか、人間ともけものともわからぬ声で、ただ、ワアワアと叫びつづけるばかりなのだ。
 文彦はあっけにとられて、そのようすをながめていたが、それに気がついた老紳士は、相手をたしなめるように、
「これ、|牛《うし》|丸《まる》、どうしたものじゃ。お客さまがびっくりしていらっしゃるじゃないか。文彦くん、かんにんしてやってください。こいつは口がきけなくてな。もっともふだんは|読唇術《どくしんじゅつ》で、話もできるのだが、きょうはよっぽどあわてているらしい。牛丸、おちつきなさい」
 老紳士にたしなめられて、牛丸青年もいくらかおちつき、手まねをまじえて、なにやら話をしていたが、それを聞くと老紳士の顔が、とつぜん、キッとかわった。
「な、な、なんだって? それじゃまたダイヤのキングが……」
「おう、おう、おう……」
「よし、案内しろ」
 老人はよろめく足をふみしめながら、牛丸青年のあとからついていく。文彦はちょっとためらっていたが、思いきってあとからついていった。
 洋館のうしろはしばふの庭になっていて、そのしばふの中央に太いスギの古木がそびえている。そのスギの木のそばに、香代子がまっさおになって立っていた。
 牛丸青年にみちびかれるままに、老人はよろよろと、スギの木のそばへ近づいていったが一目その幹を見ると、アッと叫んで立ちすくんでしまった。
 スギの幹のちょうど目の高さあたりに、みょうなものが五寸くぎで、グサリと突きさしてあるのである。それはトランプのダイヤのキングだった。

     黄金の小箱

「アッ、こ、これはいけない!」
 ヘビにみこまれたカエルのように、しばらく、身動きもせずに、あのあやしいダイヤのキングを見つめていた老紳士は、とつぜん、そう叫んでとびあがった。そして、そのひょうしに文彦のすがたを見つけると、
「アッ、文彦くん、きみもここへきていたのか。いけない、いけない。きみはこんなところへきちゃいけないのだ!」
 そう叫んで文彦の手をとると、
「さあ、いこう、むこうへいこう、香代子。牛丸。おまえたちも気をつけて……」
 文彦の手をとった老紳士は、逃げるように勝手口からなかへはいると、さっきのへやへ帰ってきた。そして、そこで文彦の手をはなすと、まるでおり[#「おり」に傍点]のなかのライオンみたいに、ソワソワとへやのなかを步きまわりながら、しどろもどろのことばつきで、
「文彦くん、もういけない。きょうはゆっくり、きみにごはんでも食べていってもらおうと思っていたのだが、そういうわけにはいかなくなった。きみ、すまないが帰ってくれたまえ。そして、二度とこの家へ近寄らぬように……そのうちにわしのほうからたずねていく。さあ、早く、……早く帰って……いや、ちょっと待ってくれたまえ」
 そこまでいうと老紳士は、風のようにへやのなかからとびだしていった。
 文彦はあっけにとられて、キツネにつままれたような気持ちだった。いったい、くぎづけにされたあのダイヤのキングには、どういう意味があるのだろう。そしてまた、この家のひとたちは、いったいどういう人間なのだろうか。
 あの老紳士にしても、香代子という少女にしても、また、口のきけない牛丸にしても、けっして悪いひとたちとは思えない。しかし、なんとなく気味が悪いのだ。あのふしぎな老婆といい、地底からひびくみょうな音といい、この家をつつむ空気のうちには、なにかしらただならぬものが感じられるのだ。
 文彦はぼんやりと、そんなことを考えていたが、そのときまたもや、だれかにジッと見つめられているような気が強くした。文彦はハッとしてへやのなかを見まわしたが、そのとき強く目をひいたのは、あの西洋のよろいである。
 ああ、やっぱりあのよろいのなかには、だれかいるのではあるまいか。そしてかぶとの下から、じぶんを見つめているのではないだろうか……。
 文彦はなんともいえぬ恐ろしさを感じたが、それと同時に、どうしてもそれをたしかめずにはいられない、強い好奇心にかられた。文彦はソッとよろいに近づいていった。ああ、たしかにだれかがかくれているのだ。かすかな息づかいの音……。
 だが、文彦がいま一步でよろいに手がふれるところまできたとき、あわただしい足音とともに、帰ってきたのは老紳士だった。
「ああ、文彦くん、そんなところでなにをしているのだ。さあ、これを持ってお帰り。日が暮れるとあぶない。早くこれを持って……」
 見ると老人の手のひらには、金色の小箱がのっている。
「おじさん、これはなんですか?」

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