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第6部分

短篇集(日文版)-第6部分

小说: 短篇集(日文版) 字数: 每页4000字

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 しかしかう仰有(おつしや)る大殿様の御声には、何故(なぜ)か妙に力の無い、張合のぬけた所がございました。
「いえ、それが一向目出度くはござりませぬ。」良秀は、稍腹立しさうな容子で、ぢつと眼を伏せながら、「あらましは出来上りましたが、唯一つ、今以て私には描けぬ所がございまする。」
「なに、描けぬ所がある?」
「さやうでございまする。私は総じて、見たものでなければ描けませぬ。よし描けても、得心が参りませぬ。それでは描けぬも同じ事でございませぬか。」
 これを御聞きになると、大殿様の御顔には、嘲るやうな御微笑が浮びました。
「では地獄変の屏風を描かうとすれば、地獄を見なければなるまいな。」
「さやうでござりまする。が、私は先年大火事がございました時に、炎熱地獄の猛火(まうくわ)にもまがふ火の手を、眼のあたりに眺めました。「よぢり不動」の火焔を描きましたのも、実はあの火事に遇つたからでございまする。御前もあの剑嫌兄扦搐钉い蓼护Α!�
「しかし罪人はどうぢや。獄卒は見た事があるまいな。」大殿様はまるで良秀の申す事が御耳にはいらなかつたやうな御容子で、かう畳みかけて御尋ねになりました。
「私は鉄(くろがね)の鎖(くさり)に俊àい蓼筏幔─椁欷郡猡韦蛞姢渴陇搐钉い蓼工搿9著Bに悩まされるものゝ姿も、具(つぶさ)に写しとりました。されば罪人の呵責(かしやく)に苦しむ様も知らぬと申されませぬ。又獄卒は――」と云つて、良秀は気味の悪い苦笑を洩しながら、「又獄卒は、夢現(ゆめうつゝ)に何度となく、私の眼に映りました。或は牛頭(ごづ)、或は馬頭(めづ)、或は三面六臂(さんめんろつぴ)の鬼の形が、音のせぬ手を拍き、声の出ぬ口を開いて、私を虐(さいな)みに参りますのは、殆ど毎日毎夜のことと申してもよろしうございませう。――私の描かうとして描けぬのは、そのやうなものではございませぬ。」
 それには大殿様も、流石に御驚きになつたでございませう。暫くは唯苛立(いらだ)たしさうに、良秀の顔を睨めて御出になりましたが、やがて眉を険しく御動かしになりながら、
「では何が描けぬと申すのぢや。」と打捨るやうに仰有いました。

       十五

「私は屏風の唯中に、檳榔毛(びらうげ)の車が一輛空から落ちて来る所を描かうと思つて居りまする。」良秀はかう云つて、始めて鋭く大殿様の御顔を眺めました。あの男は画の事と云ふと、気摺彝瑯敜摔胜毪趣下劋い凭婴辘蓼筏郡ⅳ饯螘rの眼のくばりには確にさやうな恐ろしさがあつたやうでございます。
「その車の中には、一人のあでやかな上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1…91…26)が、猛火の中に姢蚵窑筏胜椤灓ǹ啶筏螭扦黏毪韦扦搐钉い蓼工搿n啢蠠煠搜蹋à啶唬─婴胜椤⒚激蝻A(ひそ)めて、空ざまに車蓋(やかた)を仰いで居りませう。手は下簾(したすだれ)を引きちぎつて、降りかゝる火の粉の雨を防がうとしてゐるかも知れませぬ。さうしてそのまはりには、怪しげな鷙鳥が十羽となく、二十羽となく、嘴(くちばし)を鳴らして紛々と飛び繞(めぐ)つてゐるのでございまする。――あゝ、それが、その牛車の中の上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1…91…26)が、どうしても私には描けませぬ。」
「さうして――どうぢや。」
 大殿様はどう云ふ訳か、妙に悦ばしさうな御気色で、かう良秀を御促しになりました。が、良秀は例の赤い唇を熱でも出た時のやうに震はせながら、夢を見てゐるのかと思ふ眨婴恰�
「それが私には描けませぬ。」と、もう一度繰返しましたが、突然噛みつくやうな勢ひになつて、
「どうか檳榔毛の車を一輛、私の見てゐる前で、火をかけて頂きたうございまする。さうしてもし出来まするならば――」
 大殿様は御顔を暗くなすつたと思ふと、突然けたたましく御笑ひになりました。さうしてその御笑ひ声に息をつまらせながら、仰有いますには、
「おゝ、万事その方が申す通りに致して遣はさう。出来る出来ぬの詮議は無益(むやく)の沙汰ぢや。」
 私はその御言を伺ひますと、虫の知らせか、何となく凄じい気が致しました。実際又大殿様の御容子も、御口の端には白く泡がたまつて居りますし、御眉のあたりにはびく/\と電(いなづま)が走つて居りますし、まるで良秀のもの狂ひに御染みなすつたのかと思ふ程、唯ならなかつたのでございます。それがちよいと言を御切りになると、すぐ又何かが爆(は)ぜたやうな勢ひで、止め度なく喉を鳴らして御笑ひになりながら、
「檳榔毛の車にも火をかけよう。又その中にはあでやかな女を一人、上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1…91…26)の装(よそほひ)をさせて仱护魄菠悉丹ΑQ驻赛煙とに攻められて、車の中の女が、悶え死をする――それを描かうと思ひついたのは、流石に天下第一の剑龓煠陇洹0幛皮趣椁埂¥f、褒めてとらすぞ。」
 大殿様の御言葉を聞きますと、良秀は急に色を失つて喘(あへ)ぐやうに唯、唇ばかり動して居りましたが、やがて体中の筋が緩んだやうに、べたりと畳へ両手をつくと、
「難有い仕合でございまする。」と、聞えるか聞えないかわからない程低い声で、丁寧に御礼を申し上げました。これは大方自分の考へてゐた目ろみの恐ろしさが、大殿様の御言葉につれてあり/\と目の前へ浮んで来たからでございませうか。私は一生の中に唯一度、この時だけは良秀が、気の毒な人間に思はれました。

       十六

 それから二三日した夜の事でございます。大殿様は御約束通り、良秀を御召しになつて、檳榔毛の車の焼ける所を、目近く見せて御やりになりました。尤もこれは堀河の御邸であつた事ではございません。俗に雪解(ゆきげ)の御所と云ふ、昔大殿様の妹君がいらしつた洛外の山荘で、御焼きになつたのでございます。
 この雪解の御所と申しますのは、久しくどなたも御住ひにはならなかつた所で、広い御庭も荒れ放睿膜旃皮凭婴辘蓼筏郡⒋蠓饯长稳藲荬韦胜び葑婴驋呉姢筏空撙蔚蓖屏郡扦搐钉い蓼护Α¥畅fで御殻à剩─胜辘摔胜膜棵镁斡恧紊悉摔狻方扦螄gが立ちまして、中には又月のない夜毎々々に、今でも怪しい御袴(おんはかま)の緋の色が、地にもつかず御廊下を歩むなどと云ふ取沙汰を致すものもございました。――それも無理ではございません。昼でさへ寂しいこの御所は、一度日が暮れたとなりますと、遣(や)り水(みづ)の音が一際(ひときは)陰に響いて、星明りに飛ぶ五位鷺も、怪形(けぎやう)の物かと思ふ程、気味が悪いのでございますから。
 丁度その夜はやはり月のない、まつ暗な晩でございましたが、大殿油(おほとのあぶら)の灯影で眺めますと、縁に近く座を御占めになつた大殿様は、浅黄の直衣(なほし)に濃い紫の浮紋の指貫(さしぬき)を御召しになつて、白地の澶慰Fをとつた円座(わらふだ)に、高々とあぐらを組んでいらつしやいました。その前後左右に御側の者どもが五六人、恭しく居並んで居りましたのは、別に取り立てて申し上げるまでもございますまい。が、中に一人、眼だつて事ありげに見えたのは、先年陸奥(みちのく)の戦ひに餓ゑて人の肉を食つて以来、鹿の生角(いきづの)さへ裂くやうになつたと云ふ強力(がうりき)の侍が、下に腹巻を着こんだ容子で、太刀を鴎尻(かもめじり)に佩(は)き反(そ)らせながら、御縁の下に厳(いかめ)しくつくばつてゐた事でございます。――それが皆、夜風に靡(なび)く灯の光で、或は明るく或は暗く、殆ど夢現(ゆめうつゝ)を分たない気色で、何故かもの凄く見え渡つて居りました。
 その上に又、御庭に引き据ゑた檳榔毛の車が、高い車蓋(やかた)にのつしりと暗(やみ)を抑へて、牛はつけずま@(ながえ)を斜に榻(しぢ)へかけながら、金物(かなもの)の黄金(きん)を星のやうに、ちらちら光らせてゐるのを眺めますと、春とは云ふものゝ何となく肌寒い気が致します。尤もその車の内は、浮線綾の縁(ふち)をとつた青い簾が、重く封じこめて居りますから、※(「車+非」、第4水準2…89…66)(はこ)には何がはいつてゐるか判りません。さうしてそのまはりには仕丁たちが、手ん手に燃えさかる松明(まつ)を執つて、煙が御縁の方へ靡くのを気にしながら、仔細(しさい)らしく控へて居ります。
 当の良秀は稍(やゝ)離れて、丁度御縁の真向に、跪(ひざまづ)いて居りましたが、これは何時もの香染めらしい狩衣に萎(な)えた揉烏帽子を頂いて、星空の重みに圧されたかと思ふ位、何時もよりは猶小さく、見すぼらしげに見えました。その後に又一人、同じやうな烏帽子狩衣の蹲(うづくま)つたのは、多分召し連れた弟子の一人ででもございませうか。それが丁度二人とも、遠いうす暗がりの中に蹲つて居りますので、私のゐた御縁の下からは、狩衣の色さへ定かにはわかりません。

       十七

 時刻は彼是真夜中にも近かつたでございませう。林泉をつゝんだ暗がひつそりと声を呑んで、一同のする息を窺つてゐると思ふ中には、唯かすかな夜風の渡る音がして、松明の煙がその度に煤臭い匂を送つて参ります。大殿様は暫く黙つて、この不思議な景色をぢつと眺めていらつしやいましたが、やがて膝を御進めになりますと、
「良秀、」と、鋭く御呼びかけになりました。
 良秀は何やら御返事を致したやうでございますが、私の耳には唯、唸るやうな声しか聞えて参りません。
「良秀。今宵はその方の望み通り、車に火をかけて見せて遣はさう。」
 大殿様はかう仰有つて、御側の者たちの方を流(なが)し眄(め)に御覧になりました。その時何か大殿様と御側の誰彼との間には、意味ありげな微笑が交されたやうにも見うけましたが、これは或は私の気のせゐかも分りません。すると良秀は畏(おそ)る畏(おそ)る頭を挙げて御縁の上を仰いだらしうございますが、やはり何も申し上げずに控へて居ります。
「よう見い。それは予が日頃仱胲嚖陇洹¥饯畏饯庖櫎àⅳ椁Α(D―予はその車にこれから火をかけて、目のあたりに炎熱地獄を現ぜさせる心算(つもり)ぢや

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